イラク戦争に赴いた19歳の兵士が、英雄として一時帰国しアメフトのハーフタイムショーに出させられるという、現代アメリカの「戦争小説」です。
主人公ビリーとその仲間たちは、地獄のような戦場から、愛国心高揚のためのアイコンとして消費されるために帰国させられ、そして数日後には再びイラクに向かうことになります。アメリカ的な愛国心と資本主義の結合の、その残酷さを活写するのに、これ以上ない題材だと思います。
笑顔で「自分は愛国者なんだ」「あなたが誇らしい」と話しかけながら、主人公ビリーたちが死と隣あわせの場にいたこと、人を殺してきたことについてはまったく想像できない人々の愚かしさ。また他方で、「英雄」であるビリーたちを、金儲けの道具としてしか見ない人々の浅ましさ。そもそもビリーがなぜ軍隊に入ったのかというと、ひどい事故に遭った姉に対して婚約を破棄したクズ男の車を破壊したことが発端です。力を行使してでも「家族の誇りを守る」ことをビリーは実践したのですが、それゆえに、誇りもなにもない戦場へと行かざるを得なくなってしまうのです。
全体を通じてアメリカのクソな部分(自分勝手な愛国心と格差社会と金権主義とショービズ狂い)をクソみたいに煮詰めたものが読めます。これはすごい。そして同時にこの小説を書いたのもアメリカ人である、というのが、この国のある種の文化的な深さを象徴しているようにも思えます。良くも悪くも「あらすじからテーマとオチがだいたいわかる」タイプの小説で、物語の起伏は大きくありません。やるせない心情描写や、知的な自問自答、含みのある会話などが好きな人向けです。とはいえ、誰にとっても読んで損はない、この時代の一面を鋭く切り取った作品だと思います。(了)
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