【小説感想】遠野遥「関係」

2024年12月21日土曜日

 大好きな遠野遥さんの新しい短編が掲載されていると知って、『文學界』2024年11月号を(二ヶ月遅れで)入手しました。今回の短編「関係」は、これまでの作品に比べて話の筋が明快でありつつ、いつも以上に先の読めない緊張感があって、ぞわぞわしながら読みました。以下、少し感想を書きます。

 〈厚生労働省の新人がブラック労働で疲弊している中、新しい業績を形だけ出すためにおざなりの自殺対策をする〉という設定からして、だれも「人」のことを真面目に考えていないことが明白で、実にグロテスクです。これをソリッドな文章で書かれたら引き込まれざるを得ません。

 いつもの遠野作品と同様、主人公は礼儀正しく優しく、それでいて他者への共感を欠いています。ただし今回は、主人公の側もまた共感なしにモノとして扱われる展開になります(ここは『浮遊』に近いかも)。「観察対象」として淡々と私生活を暴かれていく描写は鋭く、恐ろしいの一言。

 しかし他方で、相手を細かく観察することはまた、相手の人となりを「知る」ことである、という逆説も示されており、ここが本作のポイントだと思いました。結局のところ主人公は恋人を、大事に思ってはいても、真剣に見てはおらず、だから恋人のことが究極的にわからないままです。

 主人公は、恋人が何を好きかを知り、そしてそれを愛しく思っても、恋人がそれをなぜ好きなのか、どう好きなのかを深入りして知ろうとしません。その態度ゆえに、ゆるやかな崩壊の予兆があるのが物悲しい。たとえ愛があっても、見たいものだけ見ていればいいわけではないのでしょう。

 一番最後の、「意識して・・・聴いていたわけではないから確かなことはいえない」(71頁)という文章が、物語全体を受けての余韻となります。月並みな言い方ですが、現代的な人間「関係」の歪さをシニカルに切り取った秀作だと思いました。遠野さんの次の作品も楽しみに待ちます!

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